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東京地方裁判所 平成6年(ワ)14433号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  請求

東京地方裁判所平成四年(ケ)第五八一号不動産競売事件につき平成六年七月一三日に作成された配当表のうち、被告に対する配当額が四七一七万二六五七円とあるのを四七〇〇万六七五七円に、原告(立川税務署長)に対する配当額が五五〇万〇八〇〇円とあるのを五六六万六七〇〇円にそれぞれ変更する。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告(所管庁立川税務署長)は、平成四年二月六日、太陽都市開発株式会社(以下「滞納会社」という。)に対して有していた租税債権を徴収するため、別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を差し押さえ、同月七日、その旨の登記を経由した。

2  被告は、平成二年六月八日付けで、本件各不動産に極度額を二億五〇〇〇万円とする根抵当権設定登記を経由し、その後、右根抵当権の実行として、本件各不動産の競売を申し立て、右の申立てに基づき、執行裁判所(東京地方裁判所)は、平成四年三月四日、同裁判所平成四年(ケ)第五八一号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)の手続を開始した。

3  東京都知事は、本件競売事件において、滞納会社に対して有する地方税債権について交付要求を行つた。右のうち、法定納期限が平成元年一二月二六日である不動産取得税(以下「本件不動産取得税」という。)の税額は、当初五九六万八三〇〇円であつたが、平成二年四月九日に一〇〇万円、同年五月一八日に一〇〇万円、同年一〇月四日に三〇万円、同年一一月八日に一〇万円、同年一二月二五日に二〇万円、平成三年一月二二日に五万円の各納付があつた結果、交付要求時には三三一万八三〇〇円となつた。そこで、東京都知事は、本件不動産取得税について、税額として交付要求時点における右の未納税額(三三一万八三〇〇円)を記載し、延滞金額の欄に「法律による金額要す」と記載した交付要求書(以下「本件交付要求書」という。)により、交付要求した。

東京都知事は、本件競売事件の配当期日が平成六年七月一三日午後一時三〇分と定められたことに伴い、右の交付要求にかかる本件不動産取得税の延滞金を地方税法の規定に基づいて計算し、最後の売却代金納付日現在の本件不動産取得税の税額が三三一万八三〇〇円であり、その延滞金が二三四万八四〇〇円であることを記載した交付要求額の計算書を執行裁判所に送付した。

4  本件競売事件において、被告の抵当権によつて担保される債権に優先する租税債権は本件不動産取得税のみであるところ、本件各不動産については、原告が東京都知事の参加差押えに先立つて差押えを行つていたことから、被告の抵当権によつて担保される債権に優先する本件不動産取得税分の配当金額が原告に配当されることになつた。

5  執行裁判所は、本件競売事件につき、平成六年七月一三日、別紙配当表のとおりの配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。この配当表において、原告の受けるべき配当額は五五〇万〇八〇〇円、被告の受けるべき配当額は四七一七万二六五七円と記載されているが、これは、執行裁判所が、本件不動産取得税について東京都知事の交付要求の効力が及ぶのは、本件交付要求書に記載された本税額三三一万八三〇〇円及びその税額が当初から右の金額であつたことを前提に計算された延滞金二一八万二五〇〇円に限られると判断したためである。

6  原告は、本件競売事件の配当期日に、原告に対する配当額を五六六万六七〇〇円にする旨の配当異議の申し出をした。

二  争点

本件の争点は、東京都知事の本件交付要求書による交付要求の効力が、一部納付前の本税額に対する延滞金についても及ぶかという点である。

1  原告の主張

地方税に対する延滞金は、その基礎となる本税の未納が続く限り、変動する本税の未納額とその期間に対応して発生し、本税の完納の時点で初めて具体的な金額が定まるものであり、かつ、本税の未納が続く限り、延滞金をその本税に先立つて徴収することが許されず、また交付要求時点においてはその本税の完納日が予測できないのであるから、その本税に係る延滞金の額を交付要求書に記載することはできない。

また、地方税債権者の行う交付要求は、これにより交付要求による地方税債権全部の満足を図ろうとするものであつて、地方税債権の一部についてのみ交付要求を行う裁量権は与えられていないのであるから、地方税債権者が延滞金額欄に法律による金額を要する旨記載した交付要求書をもつて交付要求を行つた以上、法律上定まる延滞金の金額を要求しているものと解される。

したがつて、延滞金について法律による金額を要する旨の記載があれば、交付要求の効力は、一部納付前の本税に対する延滞金についても及ぶと解すべきである。

2  被告の主張

民事執行法が、債権者に対し、配当要求の終期までに債権届出及び配当要求書の提出を義務づけているのは、各債権者の申し出金額によつて請求債権額を確定し、執行裁判所が、当該執行が無剰余執行となるか否かあるいは当該執行について一部の物件の売却で足りるか否か等を判断するためであり、また、他の債権者が、当該手続において受けられる配当額の有無及びその額を予測し、当該手続に参加するか否かを判断するためであるから、債権届出書の記載は、右目的に適つたものであることを要する。このことは、国税徴収法に基づいて交付要求する場合においても同様である。右の法の趣旨に照らして考えると、本件のように、交付要求書に交付要求時における本税額及び延滞金については、法律による金額を要する旨の記載しかされていない場合には、延滞金額を予測する上で必要となる当初の本税額及びその後の一部納付の経緯が全く不明であるから、一部納付前の本税額に対する延滞金について交付要求の効力が及ぶということはできない。

第三  争点に対する判断

一  国税徴収法の定める交付要求は、滞納者の財産につき、滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売等の強制換価手続が行われた場合に、滞納処分を行う行政機関、裁判官、執行官などの執行機関に対して、滞納のある租税への配当を求める申立てである(国税徴収法八二条、二条一二号、一三号)から、執行機関に対していかなる内容及び金額の租税につき交付要求するものであるかを明示することが不可欠であり、交付要求書には、「交付要求に係る国税の年度、税目、納期限及び金額」を記載すべきものとされている(同法施行令三六条一項二号)。ところで、交付要求の相手方たる執行機関は、民事執行手続を行う裁判所又は執行官である場合もあり、財産の種類により手続が相違することもあるのであるから、交付要求書においては、交付要求をする強制換価手続における規律に従い、交付要求をしようとする滞納税の内容及び金額を明示すべきものと考えられる。

地方税である不動産取得税についてその債権者が行う交付要求は、国税徴収法の例によることとされている(地方税法七三条の三六)ので、右と同様に考えることができる。

二  ところで、不動産に対する担保権の実行手続において、民事執行法四九条一項(同法一八八条により準用。以下同じ。)は、執行裁判所が物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定めなければならないとし、同条二項は、配当要求の終期が定められたときは、執行裁判所の裁判所書記官がそれを公告するとともに同項一号ないし三号に掲げる者に対して、債権(利息その他の附帯の債権を含む。)の存否並びにその原因及び額を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るべき旨を催告しなければならないとしている。これに対応して、同法五〇条において、右催告を受けた者(同法四九条二項三号に掲げるものを除く。)に、催告に係る事項の届出義務及び不届けにより生じた損害賠償義務を定め、また、それ以外の者についても、配当要求終期までに強制競売等を申し立て、または、配当要求をしない限り、配当に与かることはできない(同法八七条一項一号、二号)としている。租税債権の徴収権者についても、交付要求により配当を受けるためには、配当要求の終期までにこれをしなければならないと解される(最高裁昭和六三年(オ)第三五号平成二年六月二八日第一小法廷判決、民集四四巻四号七八五頁)。

このように、民事執行法が、債権者に対し、配当要求の終期までに債権届出及び配当要求書の提出を義務づけている趣旨は、執行裁判所が、執行対象不動産に関する権利関係や配当手続に参加することができる債権者等の範囲及び総債権額等の情報を収集し、配当要求の終期直後に売却条件や超過売却の可能性の存否(民事執行法七三条)、剰余の有無(同法六三条)等についてできる限り正確に判断することによつて、売却手続の適正化や無益な手続継続による手続上の不経済及び租税債権に劣後する担保権実行者(国税徴収法一六条参照)の不利益の防止を図ることにある。

三  右に述べたところによれば、民事執行における不動産執行手続において交付要求をするには、配当要求の終期までに、配当期日において配当すべき金額の計算を可能とするような情報が記載される必要があり、右記載から計算をすることができないものには、交付要求の効力は及ばないというべきである。この理は、地方税に対する延滞金についても同様である。

この点につき、原告は、交付要求時点においては、延滞金の額を計算することができないので、交付要求書の延滞金額欄に具体的な延滞金額を記載することができない旨の主張をする。

しかし、延滞金のうち、既に経過した期間に対応する額は、本税の完納前であつても、本税の未納額とその期間に対応して容易に計算することができるものである。したがつて、交付要求書作成日現在の本税額の記載のみからは交付要求をする延滞金額を計算できない場合には、「法律による金額要す」との記載だけではなく、交付要求書作成日までのものとして算出しうる延滞金相当額を付記するとか、同日までの延滞金を算出する基礎となる本税額を記載する等の措置を施すべきである。

そして、将来にわたつて発生する利息、損害金等、配当要求の段階においてその額を確定することができないものについては「元本額及び始期並びに完済に至るまで」との記載で配当要求をすることが許されるのと同様に、税の発生が将来の日時の経過に係る税額については、その計算の基礎事実を明らかにすることで「金額」(国税徴収法施行令三六条一項二号)の記載に代えることが許されるべきものと解される。しかし、税額を計算によつて算出することができるものについては、「金額」の記載を求める地方税法、国税徴収法、同法施行令の趣旨からいつても、その金額を付記するべきであり、「金額」の算出基礎となる事実を示さないで交付要求をすることが許されると解することはできない。

四  本件においては、前記のとおり、東京都知事は、本件交付要求書に、交付要求時点における本件不動産取得税の未納税額を記載するとともに、延滞金額の欄に「法律による金額要す」と記載して交付要求を行つたにすぎず、他に原告主張の延滞金を計算することを可能とする事実を記載していないのであるから、本件交付要求書に記載された本税額とこれに対する延滞金についてのみ右交付要求の効力は及んでいるとした執行裁判所の判断に誤りはないというべきである。

五  以上のとおり、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小田原満知子 裁判官 佐久間邦夫 裁判官 岡田伸太)

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